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と推測される。
学歴別では、医療関係者に希望することは、ほとんどの項目において短・大卒の方がケアニーズが高かった。出産についての考え「自分の希望を伝え夫・家族に思うような協力がえられている」、「希望がかなうよう自らの準備を進めている」の2項目で、短・大卒が有意に(いずれもP<0.01)高く、そう思う傾向にあり、「方針や処置について医師や助産婦にまかせたいと思っている」は両者ともまかせたい傾向であったが、短・大卒がより有意に低く(P<0.01)、まかせたくない傾向にあった。このことから短・大卒のほうが、中・高卒より、出産に対する積極的な意思や考えを明確にもっていることが明らかになった。
初・経産別では、医療関係者に希望するほとんどの項目において初産婦がケアニーズが高かった。出産について「自分の希望を伝え、夫・家族に思うような協力がえられている」では、初産婦が有意(P<0.01)に高く、経産婦が家族の協力が得られにくいといえる。また、「方針や処置について医師や助産婦にまかせたいと思っている」とおまかせ意識を問う質問では初・経産婦間に差はみられず、両者ともそう思う傾向(初産婦3.83、経産婦3.89)にあった。さらに、意思を実際の行動に移しているかどうかの「自分の希望を医師や助産婦に伝えている」では、どちらも低く(初産婦3.01と経産婦3.09)、中でも初産婦が有意(P<0.05)に低かった。
これらの理由を考えてみると経産婦は上の子供の世話のために、今回の出産に関して夫・家族の協力が得られにくかったこと、また「自分の希望を医師や助産婦に伝えている」項目が経産婦に有意に高かったのは、出産の体験から医師や助産婦に伝えるタイミングなどを心得ているためではないかと考える。妊婦のおまかせ意識について「自分の希望を医師や助産婦に伝えている」は、全体の平均値は3.10−3.00と低く3(どちらとも言えない)に近く、「方針や処置について医師や助産婦にまかせたいと思っている」では3.86−3.87と5段階評価の4(そう思う)に近かった。このことは、妊婦にまかせたい希望が強く、医療関係者に対して自分の意思を行動に移していないといえる。
宗像は、おまかせ意識とは、無知・無力を装い医師の責任を引き出させ、その責任を全うしてもらうように依存の形を取りながら、積極的に相手からの支援を引き出すための心理的操縦ともいえ、従来日本社会の中に培われてきた伝統的知恵であると述べている。つまり依存するような消極的態度(自分から主体的に意思を表出しない事)によってより自分に有利な状況になることを期待した態度であろう。今回の調査ではニーズを医療関係者に「申し出る」行動は、医療者に「希望する」に比べて明らかに消極健が見られた。つまり、希望があっても行動に移さない傾向があり、特に方針や処置については医師・助産婦にまかせたい希望が強い。このことは専門家に任せることが安全な分娩につながると考えているととらえることができる。全体ではおまかせ傾向にあるが、施設別では助産所を選択した妊婦、学歴別では、短・大卒の妊婦、初・経産別では経産婦のほうが、説明を希望し、ある程度自分でも納得した上で主体的な意思を持ったおまかせ的態度であると考える。これが、宗像のいう、良い意味でのおまかせ主義と一致する。高学歴社会の中ではおまかせ主義も「病状を自分で判断し、自分の望む治療法へ医療従事者を引っ張っていることも少なくない」といえるが、栃木県の場合は、前述のように短・大卒群が中・高卒群。より有意に医療関係者に全てをまかせたくないし、ニーズも高く、表面上はおまかせ態度でも、心理的操縦をしている可能性がうかがえる。
1996年5月10日付朝日新聞「国民の生活指標」の記事によれば、栃木県の学歴は全国で31番目であり、高いとはいえない。これがおまかせ群が多い理由の一端と考える。学歴の低い群の場合例えば、治療や方針について専門的なこと

 

 

 

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